矯正治療におけるリスクって?

歯列矯正

矯正治療を受けられる前に

矯正治療は、「笑顔に自信が持てるようになった」「人生が明るくなった」「矯正治療で第一志望の会社に合格できた」「前歯で噛み切れるようになってお蕎麦が食べれるようになって感動した」「発音が良くなって営業の仕事が楽しくなった」「肩こりがなくなって不眠症も消えた」など人生に潤いを与える素晴らしい治療方法です。

しかしながら矯正歯科治療は、美容を目的にした治療ではないため以下にあげられるような一般的なリスクや限界があります。多くのリスクは、患者様の日常生活に大きな支障を与えるものではないため、安心して治療受けて頂いて問題はありませんがあらかじめ読んで頂き知っておいて頂くと、矯正治療に関する理解が深まり治療をスムーズに受けることが可能となります。

矯正治療における一般的なリスクと限界

歯が動く痛みや食事時の違和感

矯正装置を装着した後は、当日から1週間程度歯が動く痛みを感じたり、食事に痛みを感じることがあります。この痛みは生体の正常な反応ですので全く心配なく、通常時間経過により自然に消失していきます。しかしながら、痛みが長期におよぶ場合や耐えられない場合には鎮痛薬を処方したり別の矯正装置に切り替えることがありますので、そういった場合には担当医に相談するようにしましょう。

発音時の違和感

装置装着後は、発音時に違和感が出ます。特に、裏側からの矯正装置を使用する場合やマウスピースタイプの矯正装置を使用する場合には、サ行・タ行・ラ行・カ行などが発音しづらくなったり、食べ物を飲み込む時に違和感がありますが、すぐに慣れますのでご安心ください。

発音時や飲み込み時には舌が前に出るため、装置にとがっている部分があたると痛みを感じることがありますので、その場合には装置を丸めたりヤスリで磨いたりなどの対応がありますので、痛みが続く場合には担当医に相談しましょう。

歯の表面の白濁(はくだく:初期の虫歯)、虫歯、歯周病

矯正装置をつけると装置の隙間などに食べカスが残りやすくなり、磨き残ししやすくなります。食べカスが長期間滞在してしまうと歯の表面が白っぽくなったり、虫歯になったりします。歯の表面は磨けていても歯肉との境目に磨き残しがあると歯周病になってしまうこともあります。このため、治療期間中はなるべく間食を避け、食後の歯磨きとお手入れはいつも以上を心がけましょう

矯正治療中に虫歯や歯周病が見つかった場合には、その治療に専念しなければならない時期も出てきて治療期間の延長にもつながりますので、必ずお手入れ仕方を歯科衛生士さんから学び自分の歯磨きの癖を確認してから矯正治療を開始しましょう

口内炎

ワイヤーやブラケット、リンガルボタンなどの矯正装置を装着すると、矯正装置が口の粘膜や舌にあたり、口内炎ができることがあります。多くは問題ありませんが、一度口内炎ができると繰り返すことがありますので、専用の塗り薬や装置をカバーするワックス等で対処します。口内炎は1週間から2週間程度で良くなりますが、もし症状が悪化した場合には、担当医に相談し、装置を調整してもらいましょう。

歯の破折(はせつ)や咬耗(こうもう)、マイクロクラック

反対咬合(はんたいこうごう)など上下の歯が逆の噛み合わせの場合、上の歯が下の歯を乗り越える時期がやってきます。その時にまれに歯の一部が破折することがあります。歯の破折に関しては予測できないため、上下の歯が乗り越える時には強く噛みしめないように注意しましょう。もし、破折が起きた場合には矯正治療後にプラスチックで修復してもらいましょう。

また、歯の先端どうしで噛んでいる場合や装置と歯が一時的に強く接触している場合、まれに歯の一部が磨り減ってしまったり、強く噛みしめすぎると歯の表面にマイクロクラックと呼ばれるほんの小さな亀裂が入ることがあります。これは日常生活において起こる自然なもので、ほとんどの場合は症状がなく治療の必要もありません。

歯の変色(歯髄壊死:しずいえし)

非常に稀ですが、歯を動かすことによって神経血管が断裂し歯の変色を起こすことがあります。虫歯菌の感染によるものではないため痛みは伴わないのですが、血管からの栄養供給が遮断されるため歯が薄い青色からだんだんと茶色や黒っぽい色に変色していきます。一度断裂した神経血管が再生し、変色が戻ることがありますで、早期に治療をするのではなく、通常はしばらく経過観察します。経過観察しても変色が治らないときには、気にならないようであればこのまま放置するか、根っこの治療をしてから内部漂白(ウォーキングブリーチ)などの治療を行います。

歯肉退縮

歯肉退縮とは、歯ぐき(歯肉)が下がることです。矯正治療では、歯肉が下がらないよう術前に骨の状態を把握し治療を進めていきますが、それでも稀に歯肉が下がることがあります。歯を並べるところの骨や歯肉自体が薄かったりすると歯肉が下がることがありますが、お口の健康に大きな影響を与えることはありません。最近では、歯肉移植という方法も確立してきていますので、安心して矯正治療を受けられる環境が整いつつあります。

ブラックトライアングル

歯の形や角度によりますが、重なっていた歯の軸を正しく並べると歯と歯の間にブラックトライアングルと呼ばれる三角形の隙間ができることがあります通常問題はありませんが、見た目が気になる場合や物が詰まって気になる場合には、歯の横面を少しだけ削ってブラックトライアングルを小さくすることも可能です。ただし、自分の歯を少しだけ削ることになるので、削っても良い方のみの対処法となります。

ブラックトライアングルの例

歯根吸収(しこんきゅうしゅう)

歯根吸収とは、歯根(しこん:歯の根っこ)が短くなったり丸くなったりすることで、どのような矯正治療でも起こりうる現象ですので、通常問題にはなりません。ただし、将来的に歯周病にかかって歯を支える骨が少なくなると骨の中に埋まっている歯根も短くなり、歯がグラグラになる原因となりますので、歯周病にならないようお手入れを頑張りましょう。

顎関節症(がくかんせつしょう)

矯正治療により新しいかみ合わせをつくっていく過程で口が開きにくかったり、筋肉がこわばったりして一時的に顎に痛みや違和感、頭痛などが出ることがあります。矯正治療により顎のゆがみや顎関節症状が治ることがほとんどですので、多くは問題がありませんが、症状がひどい場合には専門医の診察が必要になる場合があります。

埋伏歯(まいふくし)や癒着歯(ゆちゃくし)

歯が骨の中に埋まっている埋伏歯(まいふくし)や歯と骨が癒着している癒着歯(ゆちゃくし)がある場合、その歯の移動ができない場合があります。

埋伏歯は上顎の犬歯に多いのですが、そのほかの歯にも出現します。骨を削って引っ張ってこれる場合には口腔外科で歯の頭を出してもらい、歯の頭に器具をつけて引っ張ってきます。しかしながら、奥深くまで埋まっている場合にはそのままにしておくこともあります。

癒着歯は打撲などの外傷により生じると言われており、歯に力をかけても骨とくっついてしまっているため移動ができません。この場合には別の治療法を担当医の先生より提案されるはずです。

矮小歯(わいしょうし)や癒合歯(ゆごうし)

歯が通常の歯の大きさよりも小さい矮小歯(わいしょうし)と呼ばれる歯や2つの歯がくっついている癒合歯(ゆごうし)がある場合、矯正治療後に歯の間に隙間ができることがあります機能的にはまったく問題はありませんが、隙間が気になる場合には、セラミックやプラスチックで補うことが可能ですので、矯正治療終了あたりに一度担当医に相談してみましょう。

矮小歯の例
第107回歯科医師国家試験 B-8より引用

治療期間の延長

矯正治療の移動メカニクスや使用する矯正装置により治療期間は前後します。また、年齢や骨の状態、歯の大きさ、患者様の協力度により歯の動くスピードが変化します。このような理由から、予定の治療期間よりも長くなることがあります。

最近では、光や振動などによる加速矯正装置あるいは外科的な侵襲により血流を増加せる効果によって歯の移動を早くする方法も多数ありますので、担当医に相談されると良いでしょう。

治療の限界

顎や骨格のずれが著しい場合、手術(外科的矯正治療)をされないと顔のゆがみを治したり完璧なかみ合わせにできないことがあります。もともとの骨格の不調和に対して歯の移動には限界があるため、顕著な顔貌の変化が期待できない場合や上下の顎の真ん中の線(正中線:せいちゅうせん)が一致しなかったりなど理想的なかみ合わせにならない場合があります。

後戻り

矯正治療終了後にはリテーナー(保定装置)と呼ばれる後戻り防止装置を使用します。また、この観察期間のことを保定期間(ほていきかん)と呼びます。動かした歯は元の位置に戻ろうとするため、リテーナーを使用することにより、歯の周囲の骨ができてくるのを待ち、歯の後戻りリスクをできる限り減らすことが大切です。リテーナーを装着されないと歯が元の位置に戻ってしまいせっかくのお金と労力が無駄になってしまいます。

しかしながら、リテーナーを装着していたとしても、舌や唇の癖、口呼吸、歯ぎしり、顎の成長、頬杖、横向き寝、歯根膜の繊維が強い場合など様々な理由より後戻りが生じることがあります。

通常2〜3年程度、保定期間を設けることが一般的ですが、歯は24時間動いており、弱い力が継続的にかかった場合には動きますので完全に後戻りしないということではなく、後戻りを最小限に食い止める装置が保定装置と認識していただく必要があります。リテーナーを3年以上使用されても後戻りが心配な方はリテーナーの使用を継続されることをお勧めします。

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